国際的な行政法規の適用について

前のブログで触れられた報告書の論点のなかで、大きなものとして、行政法規を国外の行為に適用することはできるのか、という論点があります。

ここで、まず、国際法の教科書からのお話です。国際法の教科書的には、国家管轄権は、立法管轄権(国内法を制定することを通じて行為や事実規律をおよぼす権能)と執行管轄権(裁判などを通じて具体的事案に対し法を適用し、さらに法の執行のために強制を行う権能に分けられるとされます。

論者によっては、この執行管轄権が、司法管轄権と執行管轄権とに二分することもあるそうです(以上、現代国際法講義 4版 82頁)

でもって、報告書を執行管轄権という観点から表現をピックアップしていきます。

(3)規律の実効性の確保(37頁以降)
「執行管轄権の観点から、国外事業者に対する罰則や改善命令といった制度を設けることは非常に難しい。 」
「 国外事業者にも法を適用すべきか否かの議論と、規律の実効性の議論は、切り離して考えるべき。実効性が確保されないから、法を適用することをやめるという議論の方
向に傾くべきではない。」
4. 電気通信市場のグローバル化における利用者利益等の確保に向けた具体的方向(38頁)
「電気通信事業法の国外事業者への適用に当たっては、国内事業者とのイコールフッティングの観点に加え、執行管轄権の制約から、国外事業者に対しては公権力の行使となる行
政措置や罰則の適用に課題があり、このことが執行確実性の担保に影響を及ぼす点を踏まえた検討が必要である。」
168頁以降
「執行管轄権の観点から国外事業者に対する罰則等の適用は難しいのではないか、行政上の規律と刑事罰における規律を区別の上検討すべきではないか等の指摘がなされた。」

などが、この執行管轄権についての表現かと思います。

まずは、国際法的には、教科書的な知識である立法管轄権と執行管轄権における切り分けを意識して、議論が進んでいるということがいえるかと思います。執行の実効性という用語とかも、この切り分けが念頭にあるのだろうな、と思って読んだところです。

でもって、それは、いいとして、では、わが国の制定法上、外国に本店をおく事業者にたいして、立法管轄権を及ぼしている例はないのか、ということになります。

議論としていくつかの分野における議論を紹介することができるかと思います。

(1)「証券取引」の分野です。私の論文で「オンライン証券業務の法的問題」という論文があります(http://www.comit.jp/ec/finance/seikyo.doc)。

そこで、「5 証券取引における投資家保護の抵触法的側面」というところで触れておきました。証券取引法において、短期売買利益の返還義務が、国際的な行為についての行政的な執行の参考になるだろうと触れたところです。金融商品取引法をみていくと、課徴金納付命令がなされることが多いです。ところで、この命令が、海外の者にたいしてなされることが禁止されているのか、どうか。国家の権能が、他国の主権を侵害するものとして禁止されるか、どうか、という点については、それが国家の根本的な機能を侵害するかどうか、ということで判断されることになるかと思います。その意味で、命令のみで、執行管轄違反とはされないことになります。

(2)仮想通貨についての勧誘です。この点は、前のブログでも触れたところですが、資金決済法63条の22において「第六十三条の二の登録を受けていない外国仮想通貨交換業者は、国内にある者に対して、第二条第七項各号に掲げる行為の勧誘をしてはならない。」とされています。

そして、細かいところは、金融庁のガイドライン(53頁)がでているところです。

(3)独占禁止法の議論

これについては、最高裁第三小法廷平成 29 年 12 月 12 日判決があります。国外で行われた価格カルテルに対して我が国の独占禁止法の効力が及ぶかというのが議論されて、適用が肯定されています。「本件のような価格カルテル(不当な取引制限)が国外で合意されたものであっても、当該カルテルが我が国に所在する者を取引の相手方とする競争を制限するものであるなど、価格カルテルにより競争機能が損なわれることとなる市場に我が国が含まれる場合には、当該カルテルは、我が国の自由競争経済秩序を侵害するものということができる。」というのです。
でもって、事案を見れば、この事案は、X(原告・上告人)は、マレーシアに本店を置くテレビ用ブラウン管の製造販売業者ですし、課徴金納付命令が下されています。なので、海外の事業者であるから、課徴金を課すことはできないというのは、法的には、誤解に基づくものということがいえるかと思います。

前のブログで「の意味でのわが国での通信に関する保護が、結果として、外国の事業者に適用されることは、何ら、現在の法体系として問題ではないわけです。」といっているのは、そのような意味です。立法管轄権を及ぼすことも可能だし、執行の前提たる課徴金納付命令のような制度をも採用することは十分に可能なわけです。

(4)脆弱性早期警戒パートナーシップ
ここで、私がお手伝いしている脆弱性早期警戒パートナーシップを見てみましょう。「ソフトウエア製品等の脆弱性関連情報に関する取扱規程」は、第1 総則 4 本規定の適用範囲で

本規程は、日本国内で利用されているソフトウエア製品又は主に日本国内からのアクセスが想 定されているウェブサイトで稼働するウェブアプリケーションに係る脆弱性であって、その脆弱 性に起因する影響が不特定又は多数の者に及ぶおそれのあるものに適用する。

としています。実質的なアクセスであることが必要とされるわけ(情報セキュリティ早期警戒パートナーシップガイドライン)ですが、基本的な考え方は、上の独占禁止法などと同様です。「法律面の調査報告書 改訂版」では、不法行為による結果発生地の法によるという規定を参考にして作成されたことが明らかになっています。

その他としては割賦販売法、特定商取引法にも域外適用で注目すべき規定があります。

このようにみていくと、命令までは、可能で、それから先の「強制(coercive)」の行使が不可能ということで整理すべきなのだろうと思っています。(ここは、もうすこし国際法の本を読む必要がありまが)

「通信の秘密」外資にも適用の総務省有識者会議の報告書を読む

「通信の秘密」規制、外資にも適用」という記事がでています

その総務省有識者会議の報告書というのは、多分これをいっているものと考えられます

競争ルールとかいっておきながら、市場画定はしているのかいな?とかいう突っ込みはさておきます。

あと、いま一つ、電気通信事業にきわめて厳しいプライバシー規制が課せられているのは、昔、公企業と思っていたのの残滓なんじゃないの、と、2009年のとある研究会でいったのに、みんなポカンとしてましたというのもさておきます(要は、競争がない場面だとプライバシー規制がきわめてきびしいし、逆に競争がある市場だと、規制していなくても、利用者に任せていいんじゃないという思想は、理解されない傾向が引き続いているということ)

「通信の秘密」というプライバシーも、競争状況としてフェアにしましょう、とされています。これは、サービスの利用条件として、プライバシー保護が一つの要素になっているということの裏付けですね。その一方で、日本の「通信の秘密」は、(消費者行政課の解釈とメディア上では)どうしようもないくらい厳しいですし、肥大化しているものなので、これを、強行規定として、フェアにするために適用を拡大すべし、というのが、方向性としていいのか、という根本的なことは考えるべきなのだろうと思います。

役所的には、何かやっていますといいたいのですが、それは、ポーズというべきなのでしょう。イノベーションを促進するとか、エビデンスはあるのですか、ということになります。でも、そもそも、「プライバシー」の定義をしないで、イメージで議論しているので、エビデンスはとれないですよね、なんてのも、お酒を飲むとしゃべったりします。

さて報告書について、ちょっとみていきます。

この記事の部分は、
「電気通信設備を国外のみに設置する者であって、日本国内に拠点を置かない者に対しては、同規定による規律が及んでいない。そのため、上記の状況の変化に対応する観点から、国外に拠点を置き、国内に電気通信設備を有さずにサービスを提供する国外のプラットフォーム事業者に対する同規律の適用の在り方が論点として挙げられる。」
とされているところ以降かと思います(報告書 154頁)。

でもって、「憲法において通信の秘密を保護する意義がプライバシーの保護にとどまらず、国民の表現の自由や知る権利を保障すること、国民が安心・安全に通信を利用できるよう通信制度を保障することにより、国民の通信の自由を確保することにある点に鑑みると、提供主体が国内か国外かを問わず国民の通信の秘密を保護することこそが上記憲法上の要請に適うものと考えられる。」となっています。
そして、
「我が国の利用者を対象にサービスを提供する場合には、提供主体が国内か国外かにかかわらず等しく利用者情報及び通信の秘密・プライバシーの保護に係る規律を適用することにより、我が国の利用者の利用者情報の適切な取扱いが確保されるようにすることが適当である。
また、国内外の事業者間の公平性を確保し、イコールフッティングを図る観点からも、国内か国外かに関わらず、利用者情報及び通信の秘密等に係る規律が等しく適用されることが適切であると考えられる。」
とされています。
結論(?)部分は、「国外のプラットフォーム事業者が、我が国の利用者を対象として電気通信サービスと同様の、又は類似したサービスを提供する場合についても、電気通信事業法に定める通信の秘密の保護規定が適用されるよう、法整備を視野に入れた検討を行うとともに、あわせてガイドラインの適用の在り方についても整理することが適当である。」
となっています。

そもそも、みんなが普通に議論する通信の秘密は、制定法上としては、「電気通信事業者」の取り扱い中にかかる通信に関するものです(4条)。そして、法文上は、電気通信事業者は、「電気通信事業を営むことについて、第九条の登録を受けた者及び第十六条第一項の規定による届出をした者をいう。」ので(同2条5号)、文言解釈からいうと、外国の事業者の通信の取扱中にかかるデータについての取り扱いを、電気通信事業者の取扱にかかる「通信の秘密」の問題として取り扱うのは、筋違いということになります。(まして、本当の高橋説だと4条1項は、意思伝達の内容に関する規定なので、事実に関する取扱は、含まれないことになります)。

ただし、わが国の主権の現れとして、我が国の国民の通信に関するデータの取扱を他の国の事業者に「立法」として要請することは可能なはずです。この意味でのわが国での通信に関する保護が、結果として、外国の事業者に適用されることは、何ら、現在の法体系として問題ではないわけです。

この点については、仮想通貨の勧誘に関して、外国に根拠があっても、わが国の国民に影響を及ぼす場合に届出を求める仕組みは仮想通貨対応で準備されています-外国に所在する交換業者は、登録を受けていない場合には、勧誘が禁止されている(資金決済法63条の22)。この理屈を応用すれば言いわけです。

(古くは、この話は石黒一憲「証券取引法の国際的適用に関する諸問題」証券研究102巻(1992年)で論じられていました)

でもって、電気通信事業法4条を外国事業者に適用するといえばいいのかという問題があります。(そもそも、電気通信事業者が形式的で、届け出をしてもらわないといけないというのは、さておくことにします。)

実質的な電気通信事業者というのはどのようなものか、という解釈論があります。これは、大学が、事業者の届け出をしなくてはならないのか、ということの議論の時に、結構、議論になりました。

これについては、「電気通信事業参入マニュアル」が参考になります。

電気通信役務というのは、「電気通信設備を⽤いて他⼈の通信を媒介し、その他電気通信設備を他⼈の通信の⽤に供することをいう。 」(2条3号)わけですが、そうだとすると、実質的な電気通信事業者というのを考えることができるわけです。「業として、電気通信役務を他人の需要に応ずるために提供する者をいう」ということになります。

米国で、このような実質的な電気通信事業者の取扱中にかかる通信についても「通信の秘密」を守らないといけませんよ、というような改正は可能になります。

いま一つは、電気通信事業者が外国に所在するかの問題ではなくて、「取扱中」といえるか、という問題もあるような気がします。いわゆる宅内における処理については、電気通信事業法の規定が及ぶものではないのは、このブログでも何度も触れておきました。

Gメールのサービスというのは、宅内の処理なのか(単に他人の通信の用に供しているだけ)、それとも、通信事業者の取扱のなかでの処理なのか。

上のマニュアルでは、「他⼈の通信を媒介する」という説明があって、「他⼈の依頼を受けて、情報をその内容を変更することなく、伝送・交換し、隔地者間の通信を取次、⼜は仲介してそれを完成させること」をいうとしています。ここでは、「電⼦メールやクローズド・チャットといったサービスのように、サービスの提供者がサーバ等の電気通信設備を⽤いて、利⽤者Aが利⽤者Bに伝えたい情報を、その内容を変更することなく利⽤者Bに伝達する場合、当該サービスの提供者は他⼈の通信を媒介していると判断される。」となるので、このような業者自体が、電気通信事業者であると解されることが示唆されているといえるかと思います。

すると、現在の状況の整理としては、グーグル等は、わが国の電気通信事業法でいくと、「実質的な電気通信事業者」ではあるが、電気通信事業法が、上述のような届出を基準とした形式的な定義であるために、電気通信事業法の適用を及ぼせない状態ということになるかと思います。

そうだとすると、届出が必要であるとして、それに応じなければ、制定法の根拠をつくって、なんらかの措置が正当化されることになるわけかと思います。

その場合、行動ターゲッテイグ広告をどう整理するか、とうことになってきますね。通信の秘密についての個別具体的同意という話になりますが、むしろ、国内において電気通信事業者に対してのいままでの厳格な「個別具体的同意」の枠組みの指導が、現実離れしてました、ごめんなさい、ということなのかと思います。

個人的には、広告も出している身(ホームページは、グーグルの標準的な広告スキームに準拠しています)としては、知りたい広告を廉価に需要者に届け出ることができるようになっているのも技術の進歩と考えています。なので、ある程度のナッジはいるとしても、「個別具体的同意」の枠組みは、もうそろそろやめたらいいような気がします。クッキー規制って、私には時代遅れに見えているんですけど。

では、どのような枠組みか、ということになります。プライバシの認知が、「文脈」によって変わって認知されるということがキーになるような気がします。この話は、また、別の機会に考えたいですね。

電波法の「窃用」と警察の犯罪捜査

通信の秘密関係でよくいわれる窃用ですが、国会審議で見つけたので、メモしておきます。

平成16年04月13日衆 – 総務委員会 – 13号で、審議録は、こちら。

「窃用とは、正当な理由なく発信者または受信者の意思に反して利用することということでございまして、警察が犯罪捜査のために暗号通信を復元するということは、今申しましたような漏らすとかあるいは窃用する目的があるというふうには言えないと考えておりまして、本罪の対象とはなりません。」と表現されています(有冨政府参考人 149番発言)。

ところで、暗号通信のなかには、犯人の通信も、正常な通信も含まれているわけですが、「漏示、窃用の目的がないことになりますから、この場合は罰則の対象とはならないものと承知いたしております。もちろん、捜査機関であるからといいましても、無限定に暗号通信を復元できるわけではありませんし、あくまで捜査の必要性が認められる場合に限って復元を行うことが許されるのでありまして、そのような必要性がない場合にまで暗号通信を復元することができないのは当然であります。 したがいまして、捜査機関が暗号通信の復元を行う場合には、捜査の必要性を十分に踏まえる必要があるものと考えております。」というコメントがなされています(実川副大臣 155番発言)。

このような場合に、令状がいるのではないか、という山花委員と議論は、平行線をたどるのですが、すくなくても、「法執行のため」というのは、解釈でいう「自己または他人の利益のため」という用語には、含まれないということがはっきりした、ということかと思います。

「窃用」が用いられている審議録は、48件しかないので、他にもおもしろいのがあったら、クリップしたいです。

「中央銀行テジタル通貨に関する法律問題研究会」報告書

日本銀行金融研究所より「中央銀行テジタル通貨に関する法律問題研究会」報告書が公開されています。

岡田先生・山﨑先生とともに、「仮想通貨」を2015年に出版させてもらいましたが、そこでは、仮想通貨の法的な性質について、学説的な感じで、明確に論じていなかったので、わかりにくかったかな、という反省があります。

その意味で、この報告書は、論者の差異の部分について丁寧に論じている点で、仮想通貨の法的性質について、決定的なものとなるかな、と評価しています。

まずは、5頁「金銭的価値が 組み込まれた媒体を「通貨媒体」とし、通貨媒体を移転させる方法を「通貨手段」 として、両者の組合せによって、各種決済手段の私法上の位置付けを論じる見解 がある。このような整理は、CBDC の法的性質を議論する際にも用いることがで きると考えられる」という記載がされています。

なお、仮想通貨(2015)においては、11章 1.2で「「決済手段の電子化」と「決済方法の電子化」」という用語で、この点を分析しています。

報告書6頁「トークン型の CBDC にもあてはめれば、データに対する排他的支配を基準に CBDC の帰属を決定することが考えられる」となっています。

仮想通貨(2015)においては、ブロックチェーン利用のような仮想通貨においては、ブロックチェーンの記載とそれに対する信頼が、価値を表象するといえるでしょう(第5章 2.1で「技術的に言うと、貨幣的価値を有しているのは、ブロックチェインによって非可逆性が保証された状態の「取引記録」です。としています)。

報告書17頁からは、法貨性や受容性についての議論がなされています。また、私法上の論点として、移転時期、不正取得、データの偽造・複製の問題、データの消滅、強制執行について、それぞれが議論されています。

また、報告書25頁からは、中央銀行型通貨(CDBC)の日本銀行法上の論点、取引条件をめぐる法的論点が記載されています。

このなかで、興味深いので、この型が、情報を取得するのが前提となっていて、「日本銀行が CBDC の発行を通じて取得しうる情報にはど のようなものがあり、仮にそれらを活用しようとする場合には、どのような法的 課題があるか等」が論点となっているということかと思います。

仲介機関が、KYCのいわばハブとなる構想かと思います(36頁)。

また、CDBCの取引に関するデータの利活用の点についてまで分析しているは、非常に興味深いです。essential facility理論から、きちんと分析しているのは評価すべきだと思います。

ということで、「仮想通貨」(2015)を新版にするとすれば、世界的なインシデントのフォローと制定法の分析が必要になるなあ、と思っていたのですが、それにCDBCの分析までいれなければならない、ということになりそうです。

ほとんど不可能という感じなのかもしれませんが、何か機会があれば、チャレンジしてみたいところです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」6回議事録

通信の秘密を検索して、自分に関する記事をみていたら、「インターネット上の海賊版対策に関す る検討会議」第6回の議事録が検索に上がってきました。

いわゆるブロッキング問題が議論された一連の会議で、最終的には、ブロッキング問題については、

知的財産戦略本部の全体の資料は、こちらです。

議事録としては、その19頁目で林委員から、「資料として「通信の秘密の数奇な運命(国際的な側面)」という高橋郁夫先生の 論文を提出させていただきました。この点について補足説明したいと思います。」という言葉がありました。

「通信の秘密の数奇な運命(国際的な側面)」というのは、「通信の秘密の数奇な運命」の3本目の論文になります。「憲法」「制定法」について、「国際的な側面」になります。
掲載されているのは、情報ネットワーク・ローレビュー 第15巻 情報ネットワーク法学会 編です。

この論文は、2016年の段階の論考で、構成としては、

1 問題の所在と分析の枠組み
2 通信主権の概念
2.1 用語としての通信主権
2.2 国家主権の概念と通信との関係
3 国外からの通信に関する問題
3.1  国外からの通信に対する国内の通信資産等の防衛の問題
3.2 ギャップの解消のアプローチ
3.3 具体的な解釈論への展開
4 国外への通信の問題点
4.1 国外への通信の分析の枠組みについて
4.2 対外的なサイバー作戦の諸問題
4.3 民間の行為の諸問題
5 結論
となっています。

ご紹介いただいた部分の記述ですが、
「現時点においては、「プロバイダ責任制限法 著作権関係ガイドライン」が明らかにされており 、特定電気通信による情報の流通によって自己の著作権等を侵害されたとする者は、関係するプロバイダ等に当該著作権等を保有することを明らかにして、それを侵害する情報の送信を防止すべきことを求めるという仕組みが準備されている。しかしながら、この関係するプロバイダ等が国外にある等の場合において、どのようにこのような権利者の立場を確保するかという点については、いまだ、仕組みが存在していない状態である。この場合に、著作権者等が、プロバイダ等に対して、その海外からの通信を我が国において、遮断すべきという裁判を求めるということが想定されうる。この場合には、海外における通信の秘密、プロバイダ等における通信の裁量などが比較考量されるものと考えられる。この比較考量の場合に、海外からの通信であることがひとつの要素として考慮され、我が国の法のもとにおいては、秘密として保護が保証されるものではないと考えられる。」
となっています。

そして、宍戸常寿先生から
「2点目は、林先生から提出いただきました高橋郁夫先生の御論文というのは大変有名な論文でございまして、通信の秘密について立ち入った議論をしている方というと高橋先生という感じで、私もよく勉強させていただいているのですが、ここで議論の前提になっているのは、やはり通信主権をどう確保するか。その観点から、国内通信と国際通信を分け
るか、分けないか、非常に大きな論点がここに潜んでいた上での高橋先生の御見解であり、利益衡量だと思っております。 」
とご評価いただきました。(議事録22頁)

通信の秘密の他の論文に比較すると国際的な側面というのは、マニア向けのもののような感じで書いていたのですが、「大変有名な論文」という評価をいただきまして、本当にありがたいことだなあと思っています。

ちなみに、「通信の秘密の数奇な運命」なんですが、ルーカスばりに、いろいろなエピソードでサーガにできるなあと考えています。
エピソード1 憲法制定前の日本における通信の秘密
同2 憲法編
同3 制定法(上)
同4 制定法(下)
同5 電波法編
同6 国際的な側面
同7 比較法編(イギリス編)
同8  同(アメリカ編)
同9 わが国における制定法とその解釈について
あたりでしょうか。現時点では、1、2、3、6については、発表済みですが、平成以降の発展をまとめる、エピソード4については、構想だけというのが悲しいところです。それこそ、総務省のしかるべきところが、調査するべきかと思うのですが、それも期待できないと思っていますので、なんとかしたいです。

実は、電波法編は、このシリーズに組み込めるのではないか、と今、考えていたりします。

ちなみに、著作権と通信の秘密との関係については、私の会社のほうで「諸外国におけるインターネット上の権利侵害情報対策に関する調査研究の請負」報告書としてまとめています。

私としては、著作権と通信の秘密との関係については、この総務省の報告書や沖縄ICTフォーラムでの発表(これについては、ここで)とかで、考えを整理したところがあります。

昨年の議論としては、「ブロッキング」という用語で、サーベイランス・モニタリングをいうものと定義して、その定義に伴う広さを攻撃したというところがあると考えています。むしろ、プロバイダの拡散停止の権利という整理をすれば、これは、なんら「通信の秘密」との関係が生じるものではないと考えています。

シンポジウム「データ戦略の課題と未来」

IT法部会と日弁連法務研究財団の共催による「データ戦略の課題と未来」が開催されます。

情報のサイトはこちらです

私も、プログラムのお手伝いをしていますし、データ戦略というのは、今のもっともホットなイシューになるかと思います。

法的な立場からは、個人情報該当時のリスクの話を聞くことは多いのですが、企業等において実際にそのようなリスクをコントロールしながら、どのように進めるか、というのを聞くことはなかなかないので、非常に貴重な機会かと思います。

みなさま 奮ってご参加ください。

 

プラットフォーマーと個人情報プラス

個人情報保護委員会から、「「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」に対する当委員会の考え方について」という報道発表がでています。

もともとの「公正取引委員会からの考え方(案)」については、一つ前のエントリで、メモをしておきました。要点は、「優越的な地位の濫用」を「優越的地位」という微妙な判断基準のもとに「競争」概念とは、違う観点から、市場の競争状況を具体的に考えないで、「プラットフォーム規制」という流れのもとに適用するというのは、注意すべきであるということです。

それは、さておき、そこでは、「個人情報プラス」に対する規制が意味されているのではないか、ということを示唆していたのですが、まさに、この考え方において、この「プラス」部分に対する規制であることが、確認されています。

この「プラス」規制であることがよく分かるのは「消費者に対して優越的地位を有するデジタル・プラットフォーマーにあっては、個人情報保護法に違反する場合だけでなく、個人情報保護法に違反するとはいえない場合であっても、消費者に対して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなる場合がありうる。」という部分です。

前のエントリで、これをどのように位置づけるのか、ということを指摘しておきました。いわゆるプライバシ・アドブォケイト諸氏におかれては、個人の「何を」を保護法益としているのか、具体的に、この「不利益」とされるのは何か、さらに、個人のプライバシの買いたたきにたいして、このようなパターナリズムを正当化するのは、何なのかというのを明らかにしてもらいたいなあ、と思っています。

まあ、反語的な表現にしましたが、要は、今回の公正取引委員会も個人情報保護委員会も、「プラットフォーム規制」という流れの中で、「優越的地位の濫用」の理論を濫用しているなあ、というのが私のエントリのまとめということになりそうです。

プラットフォーマー論とプライバシーの落とし穴

「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」が、出ています。

内容としては、いわゆる「デジタル・プラットフォーマー」の特性、独占禁止法の適用、優越的地位の濫用の適用可能性について「はじめに」でふれた後に、

1 優越的地位の濫用規制についての基本的考え方
2 「取引の相手方」の考え方
3 「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して」の考え方
4 「正常な商慣習に照らして不当に」の考え方
5  優越的地位の濫用となる行為類型

の各点について、分析がなされています。

プラットフォーマー論が競争法の文脈で語られる場合、特に、優越的地位の濫用の理論を用いた場合には、市場の画定をしなくていいとされるので、競争との関係が、いわば、グダグダになってきます。市場についての分析が厳密になされない、したがって、競争との関係について考慮が及ばないということが一つの落とし穴になっているのではないか、と考えられます。

いわゆるGAFAをみたときに、さて、どのような市場なのでしょうか。
グーグルは、検索+広告市場ですね。アマゾンは、商品購入+広告でしょうか。FBは、SNS+広告。アップルは、アップル(製品)というハードウエアかもしれません。
図解しておきます。

 

ところで、利用者からだと、検索、商品購入、SNSしか見えていなかったりします。つい、この見えやすい市場での競争力を押さえつけるべきだという考え方になりがちではないか、というのが、「落とし穴」といった理由です。

2 「取引の相手方」の考え方について

考え方は、「サービスを利用する際にその対価として自己の個人情報等を提供していると認められる場合は」と記載されています。

まず、大原則「No Free Lunch」です。サービスが提供される場で、これらの情報が、利用者から、サービス提供者に供給される、したがって、取引の相手方ということになるのは、いうまでもないことでしょう。「対価として」ということにどのような意味があるのか、ということです。配達のためだけに提供されて、それ以外にまったく使わなければ、「対価として」とはいえないとなるのかもしれません。

市場の画定の際には、価格を上げた場合の利用者の移行をみるわけですが、サービスの費用がゼロの場合であっても取引の相手方になりうるは、当然といえるかと思います。価格については、インセンティブが与えられる場合もあるわけなのは、私たちのeID 研究で、すでに10年前に明らかにされているところです。

米国で「アマゾンの競争政策におけるパラドックス(Amazon’s Antitrust Paradox)」という論文が独禁法の適用に影響を与えたという記事があるのですが、そのうち、参照してみることにしたいと思います。

次に、ここで、「等」とされているところの意味を考えます。そして、私の特許でも明らかなように、商品選考の判断さえも、貴重な情報になってくるのです。その意味で、個人情報規制プラスが示唆された用語法になります。

3 「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して」の考え方
考え方の(1)および(2)は、普通に市場力があるということなので、それは、それでいいかと思われます。(公取委的には、説明法は違いますけどね)

4 「正常な商慣習に照らして不当に」の考え方
これは、解説としては、「公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認されるものをいう」といっていますが、ほとんど同義反復ですね。

で、実は、「是認されるか」という問題は、そもそも、「優越的地位の濫用」って「競争」との概念では、どのように整理されるのという問題にさかのぼってきます。
この点については、競争法の世界で、非常に議論のあるところです。

個人的には、「優越的地位の濫用」は、世界的な解釈からみたときに、競争との関係では、説明がつかないものではあるが、日本的な状況から、実務的なものとして運用されていると整理しています。詳しくは、「規約変更によりGeForceのデータセンター利用を制限」を参照ください。

日本において、当事者間の法律関係について、執行が困難であったり、コストがかさんでしまったりする場合に、対応する必要があり、それが競争法に裏口から、忍び込んでいるというところでしょうか。

この点についてのまとめた論文として、参照しやすいものとして加賀見 一彰「「優越的地位の濫用規制」の濫用の規制 : 法・法学と経済学との相互対話を目指して」があります。

以下、このアプローチをもとに検討します。

すると、検索市場の取引関係を見ていくと、以下の図のようになります。

ところで、個人情報等について、これが、提供者に無料で提供されるわけです。

これを検索市場の競争秩序からみたときにどうなるのでしょうか。

競争というのは、需要にたいして種々の供給が提供されて、その種々の提供の間で、選択がなされうる場合ということになるかと思います。

競争法の秩序という観点からみたときには、利用者が、個人情報等の価値について「理解しうる」のであれば、種々の検索サービスで、連携されている商品の価格が安くなるとか、情報を利用しないとか、そのような情報に対する「対価」の差別化を得ることができれば、競争が維持される、ということになるかと思います。

では、「個人情報等」が買いたたかれている、というのは、競争法の秩序からみたときに、公的に是正すべきものとして、介入すべき問題なのでしょうか。規制の効果とそのコストという問題もかんがえないといけないです。

商品の買いたたきの防止、という観点からいくと、労働力の買いたたきの禁止としての最低賃金の定めというアプローチがあることに気がつきます。個人情報等にたいして、そのような「強制的なお節介(ハードなパターナリズム)」をとるべきなのでしょうか。

公的に是正すべき場合には、何らかの手法が、効果が生じうるものであることが必要になる(改善可能性ですね)と思われます。ところが、プライバシーという観点からいくと、個人は、プライバシーが重要だといっていても、実際の選択については、ほとんど気にしない(プライバシーパラドックス)という特徴があります。なので、公的に是正することをいってみても、個人に関連する情報が何か、価値として異なるのかということが、サービスの競争の条件としては意識されることはない、ということになります。

検索市場を例にとってみてみましたが、提供者は、個人情報に関して、利用者の注意を喚起する、そして、法の定める要件を満たすということ以外に、なにか、別途、利用者にたいして、追加の対価を与えるべきなのか、ということは、それを与えるという方向性を示したとしても、利用者に対して、評価されずに、競争という観点からは、効果がない、という宿命が待ち構えているということになります。そもそも、提供者が、いろいろと利用可能な情報を、できるかぎり安価に取得しようというのは、自由主義というか、競争の観点から当然のことです。それに対抗して、何か、特別の義務をプラットフォームに課すべきであるというような議論は、実効性がありうるのか、という問題に直面するわけです。

その上に、そもそも、特別の義務論的なものは、プライバシーとの関係で、どのような意味があるのか、ということが問題になります。市場力を有するサービス提供者によって、取得されるとき、利用者は、プライバシーが(競争市場と比較して)特段に侵害されたと感じるのか、というように問題を言いなおすこともできます。

これは、「プライバシー」をデータ保護、個人に関するデータに関する自己決定権といっているうちは、解決できない落とし穴です。
プライバシーを、「個人の自己に関するデータが他人に了知されることから生じる不安感」と定義し、それが、文脈によって、変動するという実際を認めたときに初めて考えうる問題になってくるか、と思います。

すると、市場力を有しないプロバイダーだとなしうる行為であっても、市場力を有するプロバイダーは、なし得ない行為があるのではないか、ということになります。これは、今後、検討されるべき問題でしょう。

ところで、市場の構造を見てみると、検索市場や、商品販売市場における存在(市場力)を利用して、広告市場において有力な地位を得ようとするのはどうでしょうか。これは、広告市場での競争を減殺させる構造が生じているというよう思われます。ただし、これに対して、何らかの対応をすべきかどうか、というのは、広告市場の市場分析等がなされなければならないかもしれません。広告といっても、弁護士を探す面では、むしろ、弁護士ドットコムのほうが、強いかもしれませんね。どの程度まで細分化された市場を考えるかとかの問題もあります。

このように見てきた場合に、公的規制によって、プラットフォームをめぐる取引関係について、介入すべきではないのではないか、と考えられます。もし、本当に望ましい公的な介入は、むしろ、新規技術を促進し、また、リスクを緩和し、さらに、許容範囲を明確にすることによって、社会の発展をうながすために使われるべきでしょう。

1990年代に、マイクロソフト分割論が、騒がれ、米国政府は、多大なコストを使って、規制をなそうとしました。また、EUは、Windows95のブラウザを後にインストールするような版を作らせました。それがどれだけ競争に効果があったのでしょうか。Chromeは、EUの政策があったからといって、シェアを拡大したわけではないでしょう。技術の進展が、競争を生み出し、社会の進歩を生み出すわけです。

「企業におけるITシステム利用時の機関設計と内部統制」が弁護士ドットコムに掲載されました

「企業におけるITシステム利用時の機関設計と内部統制」が、弁護士ドットコムに掲載されました。アドレスは、こちらです(https://business.bengo4.com/practices/1044)。

自分の監査委員の経験をももとにまとめた小論です。お役にたてますと幸いです。

ちなみに、任期満了により社外取締役を終了しておりますので、もし、社外取締役の人材を求めているという会社さんがおられましたら、候補としてお考えいただけると幸いです。

「情報漏えいが疑われる場合の対応方法」が、弁護士ドットコムに掲載されました

タイトルのとおりですが、「情報漏えいが疑われる場合の対応方法」が、弁護士ドットコムに掲載されました。アドレスは、こちらです(https://business.bengo4.com/practices/1043)。

吉本の問題にしろ、クライシス・コミュニケーションの手法が議論されたりすることも多いですが、この原稿は、そのような論点も、エクササイズ (セキュリティ業界的にはTTXと呼んでいたりします)によって、上手に対応できるのではないか、という観点から、触れています。