データポータビリティの意味

生貝先生の「EU新規則案データローカライゼージョン法の禁止と「非個人データのデータポータビリティ」という記事がでています。

まずは、原文を押さえておきましょう「EUにおける非個人データの自由な流通フレームワーク規則」(REGULATION OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on a framework for the free flow of non-personal data in the European Unionになります。

データローカライゼーションというのも、非常に、注目すべきもの(といっても、これは、EU域内だろうというツッコミは、さておき)ですが、むしろ、データポータビリティに注目します。

データポータビリティというのが、非常に大事なものになるだろうというのは、全く、そのとおりだろうとおもいます。
まず、最初に確認しておくべきことなのは、データというのが、これからの情報処理については、まさに、燃料となるべきものであるということです。

たとえば、それは、「ディープラーニングによるラーメン二郎全店舗識別と生成」というスライドを見てもらえれば、わかることですが、ラーメン二郎のラーメンを分類するのに目視で、自撮りや店舗概観等を除去していかなければならなかったということです。

また、ドキュメントレビューにおいては、サブセットに対する関連性の判断が、「ファインチューニング」(スライド 28頁)の役割を果たします。その場合に、その関連性の判断は、それなりの経験を積んだレビューアー・弁護士がするので、関連性の判断のデータセットは、それ自体、非常に、価値のあるものになります

ところで翻って、実際のこのような判断ツールで、手間暇かけて作成したデータセットをそのまま、判断ツールの運営者に渡してしまうというのがいいのか、という問題が生じます。
そのような手間暇かけたデータセットは、その手間の分に釣り合う価格が提示されてしかるべきではないか、と考えられるのです。しかしながら、実際は、判断ツールが、競争のもとで自由に選択することができるということがなかなかないように思えます。そのような場合に、やむを得ず、クオリティの低い判断ツールを使わなくてはならなくなったり、手間にきちんとした価格が支払われなくて、手間がかけられなくなったりするのではないか、ということが考えられるのです。

実感したところで、説明メモに移ります。

提案目的では、クラウド、ビッグデータ、AI、IoTなどが、理由としてあげられています。特に機会学習を通じて、効率が上がっていくことに注目がなされています。

規制当局が、データに対してアクセスしうることを求めることを確保しやすくするということなのですが、いままで、そのような理由から、国内にデータがあることを求めていたりしています。そのアクセスを保証する代わりに、データの移動を改善しましょうというのです。

いま一つは、プロバイダーを移転しやすくするというのは、重要なことである

とされています。

この提案は、European Cloud initiativeを含むDigitising European Industry (DEI) policyパッケージ

European Interoperability Framework
の見直しの上になりたっているとされているのですが、このあたりの分析は、またの機会にしましょう。

条文としては、6条ですね。
1項 委員会は、プロバイダーの切り替えを促進するためのベストプラクティスに関するガイドラインを定義し、専門家にデータの保存と処理の契約が締結される以前に、十分詳細で明確かつ透明な情報を提供することを保証するために、連合レベルでの自己規制の行動規範の開発を促進し容易化する。以下の論点のとおり。
(a)プロのユーザーが別のプロバイダに切り替えるか、またはデータバックアップのプロセスと場所を含む独自のITシステムにポートデータを戻したい場合に適用されるプロセス、技術要件、時間枠および料金。これらは、利用可能なデータ形式とサポート、必要なIT設定と最小限のネットワーク帯域幅;移植プロセスを開始する前に必要な時間、およびデータが移植可能な状態になるまでの時間、およびプロバイダの破産の場合のデータにアクセスするための保証、を含む。
そして
(b)ユーザーがデータをスイッチまたは移植するのに十分な時間をもつことができる、構造化され、一般的に使用され、機械可読なフォーマットでデータをスイッチまたはポートするための操作上の要件。

2項 委員会は、本規則の適用開始後1年以内に第1項に規定する行動規範を効果的に実施するよう、事業者に奨励するものとする。
3項 欧州委員会は、この規範の適用開始後2年以内に、このような行動規範の開発と効果的な実施、および提供者による情報の効果的な提供を検討しなければならない。

昔は、データポータビリティというと、クラウドのロックイン効果があって、それに対しての緩和効果という文脈で語られたものでした。が、今だと、機械学習の文脈で語ったほうが実感を持ってもらえるという感じかなとおもいました。覚えさせる労力はだれのものかとか、プライバシーポリシーが適用されないとかは、エントリで紹介してきたので、そのような文脈でとらえられる規則案が出てきたのは、注目に値するといえるでしょうね。

個人情報の価値 考え直せ グローバル・ビジネス・コラムニスト ラナ・フォルーハー

日経新聞に、グローバル・ビジネス・コラムニスト ラナ・フォルーハー氏の「個人情報の価値 考え直せ」という論説が掲載されています。

主たる要旨は、
(1)米IT(情報技術)大手が独占的な力を有している
(2)消費者は、その対価をただで、その貴重な情報を譲り渡している
(3)市場の情報へのアクセスは平等とは言えない
(4)情報に対する対価という面でも透明性が確保されていない
(5)これらの問題点を克服するために、データから生み出されるあらゆる経済的価値についても明確な権利を持つべき
というものです。

(1)、(2)、(4)については、私としては、「プライバシーはなぜ難しいか」とか、「プライバシーパラドックス」でふれているとおりですし、また、IPAの研究報告書でも、その旨は、実際の実験とともに明らかにされているところですね。全くもって、同意します。

(これが公表されたのは、2010年なんですけどね)

(3)なのですが、ラナさんが、いっているのは、どの市場なのでしょうか。市場といっている以上は、価格をすこしあげても、他のところに移らないという一定の範囲になるわけです。

Googleに関していえば、オンライン広告市場というのは、確かに考えられるでしょう。しかしながら、その利用者は、企業であって消費者ではありません。

EUが、いろいろと認定している市場は、「一般的検索サービス市場」「ライセンス可能なスマートフォンOS市場」「アンドロイド・モバイルOS市場におけるアプリケーション・ストア市場」になるのですが、後ろ二つは、信者の存在を前提としての話になりますね。

「一般的検索サービス市場」は、消費者に対して、価値の分配をする競争者が現れるべきであるというのでしょうか。それは、そのとおりだと思いますし、消費者のプライバシーが安売りされているので、競争者がでて、1検索あたり、マイクロポイントがもらえるようになるべきだというのは、正論です。

しかしながら、それをどのように実現するのか、というところで、彼女は、いままでの鋭い分析が嘘のように、トリッギーな論説にいきます。

「データから生み出されるあらゆる経済的価値についても明確な権利を持つべき」というのです。消費者は、検索したときに、上記のようなマイクロポイントを有しているのだから、それを請求できるというのでしょうか。そのマイクロポイントのいくらが正当で、それをどのように実現しようというのでしょうか。それとも、Gは、分割されるべきというのでしょうか。まさに「固いパターナリズム」です。

IBMやMSとの分割をめぐる論争が、ほとんど何も生み出さなかった(弁護士業界には、利益があったでしょうけど)のを忘れてはいけないと思います。

要は、消費者のプライバシーが適正な価格で取引されるようにするためには、それは、消費者に対するナッジをする、もしくは、同意におけるデフォルト値を最適に設定するようにすることであって、それによって、適切な競争状態のもとで、取引がなされるように仕向けることが精一杯でしょう(いわゆる、ソフト・パターナリズムです)。

もっとも、プライバシーパラドックスは、どうせ解消できないので、いっそのこと、データに税金をかけて、それを、ベーシック・インカムの財源にすればいいのではないかという気もしますね。

 

 

 

 

英国データ保護法1998の構造 84年法との比較・構造・主体客体

1 データ保護法1998の構造

1.1. 84年法との変化

84年法のもとでは、データ保護については「データ・ユーザー」「コンピューター・ビューロー」「データ主体」の概念のもとで論じられていました。

98年法においては、基本的な構造は、維持されたのですが、用語法が異なり、また、基本的な定義および要件について変更がなされています。特に84年法では個人データの処理は、事前に登録局に登録しておかなくてはならず、そして、それが法制の適用の前提条件となっていたのですが、このリンクは98年法で断ち切られています。

1.2.  98年法の構造

98年法の構造を図示すると、以下のようにまとめることができます。

すなわち、データに関連して、データを管理する者と個別にデータを処理する者は、データ保護8原則に従わなくてはなりません。そして、データ主体は、そのデータについてコントロールする具体的な権限を有することになります。それらを監督するために独立の情報コミッショナーが執行の役割を担い、裁判所が一定の役割のもとそれに関与するというものです。

以下において、この仕組みを詳しくみていくことにしましょう。

なお、98年法は、6部(75条)と16の附則からなり立っています。

「序」において、「センシティブ個人データ」「データ保護原則」「法の適用」「コミッショナーおよび審判所」などの基本的な概念が説明されています。

「データ主体の権利など」(2部)において「個人データへのアクセス権」「差止請求権」「訂正・抹消請求権」などがさだめられています。

「データ管理者の通知」(3部)においては、「登録なしの処理の禁止」「変更の通知義務」「犯罪」「コミッショナーの事前評価」などが定められています。

4部は、「例外」規定となり、5部は、「執行」の規定となっています。

6部においては、「コミッショナーの機能」「個人データの違法取得」「データ主体のアクセス権のもとで取得された記録」などについての規定がおかれています。

2 主体・客体

2.1.主体

98年法に関するデータ保護をめぐる当事者としては、従来の「データ・ユーザー」「コンピューター・ビューロー」「データ主体」の用語に取って代わって「データ管理者」「データ処理者」「データ主体」の用語が用いられることになりました。この点について、以下、詳述します。

(1)「データ管理者(data controller)」

84年法においては、データの内容及び使用についてコントロールできる当事者を「データ・ユーザー」としていたが、98年法における「データ管理者」は、内容において、ほとんど変化がありません。

そこでは、データ管理者は、「(単独で、または、共同し、または、他の者と共同して)個人データのあり方、または、処理の目的および手法を決定」するものをいうとされています。

具体的には、ビジネスに関するすべての記録を管理しているビジネス人を例にあげることもできます。彼が、そのデータを会計士にデータを渡して処理を依頼すれば、データ管理者とされます。また、会計士自体もデータの管理を維持する点でデータ管理者と考えられます。

(2)「データ処理者(data processor)」

84年法における「コンピューター・ビューロー」に代えて「データ処理者」が用語として用いられるようになります。「データ処理者」は、「データ管理者のためにデータを処理するもの(データ管理者の被傭者以外のもの)」をいいます(98年法第1条(1)項)。

84年法において「コンピューター・ビューロー」は、活動の詳細についての登録をなすことなどが要求されました。

これに対して、98年法では、適切なセキュリティ要件を満たすためにデータ管理者に対して負担が課せられることになりました、その一方で、「データ管理者」は、通知要件(第17条)に従うものではありません。

データ管理者が、セキュリティに関して十分な保証を提供しうる処理者を選択する責任があります。そして、この際には、書類による契約がなされなくてはならないとされています。

(3)「データ主体」(data subject)

データ主体という用語は、1984年法と相変わらずであり、そこでは、「個人データの主体である個人」と定義されています(同法第1条(1)項)。

データ主体のもっとも重要な権利は、疑いもなく管理者により保管されているデータに対するアクセス権であり、それらの誤りに対する訂正要求権です。

2.2.客体等

データ保護法における重要な概念としては、「データ」「個人データ」「処理」などがあります。それらのうち、特に重要な用語について若干の説明をなすと以下のようになります。

(1)「データ」(data)

98年法において、「データ」は、

「(a )処理目的の指示に従って自動的に処理する設備の手段によって処理される

(b)上記の設備によって処理される目的をもって記録される

(c)関連するファイルシステムの部分または、それを構成する意図をもって記録される」

情報と定義されています。

ここでは、データが自動的に集積しただけでは、98年法の適用対象にはなるものではなく、自動的に処理する意図を有したときに初めて適用対象となるとされているのである。また、(c)によって、マニュアルレコードに対して適用が拡張されることになったのである。

(2)「個人データ」(Personal data)

データから個人が識別されないのであれば、プライバシーに対する侵害や法制化の正当性というのは、考えがたいことになります。

そうだとすると、逆にどのような情報をもって個人を識別させる情報というかということが重要になります。

EU指令では、

「(a)『個人データ』とは、識別できる、又は識別できない自然人(データの対象者)に関する全ての情報を意味するものとする。識別できる人物とは、特に身元確認番号の参照によって、又はその人物の肉体的、生理的、精神的、経済的、文化的、経済的アイデンティティーによって、直接又は間接に識別することができるものを意味する。」

と定義されています(同第2条(a)項)。

98年法においては、この実装のために

「『個人データ』は、

(a )それらのデータから

または、

(b)それらのデータおよびデータ管理者の保有する、または、その保有することになるであろう他の情報から

生活する個人を識別することができるのに関連するデータを意味し、個人の意見の表現、個人の観点からするデータ管理者または他の者の何らかの意図の表現を包含する」と定義されている。

この概念は、識別可能性と識別性の二つの概念をカバーするとされています。識別可能性については、何人であるか追跡ができうることをいい、識別性は、「日常の用語でいえば、名前と住所を知ることで達成される」とされています。

「何らかの意図の表現を包含する」という部分ですが、84年法においては、データについては、「事実データ」「意見データ」「意図データ」の3種があり、そのうち、データ・ユーザーの意図については、これを除外すると定義されていました。

が、98年法においては、「意図データ」についても、これを含み、保護の対象とされることになりました。

もっとも、「意図データ」として、従来は、「解雇しようと考える」とか「エクゼクティブの器ではない」などのキャリアについての個人記録があげられていたのですが、98年法においては、「マネジメント予測」の定義のもと例外規定が設けられています(附則7条)。

でもって、この概念の識別可能性と識別性というのは、重要な考え方になるので、別のエントリで、分析するのがいいかと思います。

(3)「センシティブ・データ」(sensitive  data)

84年法においては、人種的出自、政治的信条、宗教ないしは信条、肉体的または精神的健康、性生活または刑事宣告に関するデータについてデータ保護原則を強化する規制をなす権能を準備ていました。しかしながら、この権能は用いられませんでした。

98年法は、センシティブ・データについての取扱を法制の中心とし、他形式のデータの場合よりも、処理についてさらなる要求に従わせることとしました。

98年法におけるセンシティブ・データの定義は、

(a )データ主体の人種的・民族的出自

(b)政治的意見

(c)宗教的信念またはそれに類似する信念

(d)労働組合のメンバーであるか否か

(e)肉体的または精神的健康ないしコンディション

(f)性生活

(g)犯罪についての前科・前歴・容疑

(h)犯罪についての手続き、または、被疑事件についての手続き、その手続きにおける処理または手続きにおける裁判所の宣告

とされています。

これらのセンシティブ・データについては、「明確な同意」「雇用についての必要性」「重大な利益」「特別団体による処理」「パブリック・ドメイン」「法的手続きおよび裁判権の行使」「医学目的のための処理」「民族的モニタリング」「国務大臣の命令」などの場合において、一定の条件のもとに処理が認められているにすぎないのです。

(4)「処理(processing)」

EU指令も98年法も、特定の主体に関連して処理することを必要とはしていません。定義としては広いものであるということができます。

処理行為とは、

「情報またはデータの取得、記録、または保持、もしくは、データについての操作の実行または操作のセットをいい、以下の

(a )情報またはデータの組織化、適合、変更

(b)情報またはデータの検索、調査 、使用

(c)送信、拡散、またはその他の利用可能にする行為による情報またはデータの開示

(d)情報またはデータの整列、合成、妨害、消去または破壊を含む」

と定義されています(98年法第1条(1)項)。

この定義は、きわめて広いもので、すべてのデータに対する操作が含まれるとされています。

 

英国データ保護法1998の歴史的経緯

英国においてデータ保護法案2017が提案されていて、それを検討する前に、データ保護法1998を復習してみましょう。

第1章 英国データ保護法制

第1 データ保護の必要性と歴史的経緯

1 制定まで

英国においては、1970年代になるとプライバシー権の主張と平行して、個人情報保護がとなえられるようになっていっきました。

1975年には、ヤンガー報告書に対して、政府は「個人情報をコンピューターで取り扱っている者に対して自分たちのシステムがプライバシーに対して十分な保護をなしていると判断する唯一の裁判官であり続けさせることはできない」として、データ保護局の法制化を認めることになりました。

このデータ保護局の公正等についてリッドップ卿を議長とするデータ保護委員会が構成され、1978年には、データ保護法の立法提案をおこない、この提案は、高価で官僚的であるとして拒絶されたものの、1984年にデータ保護法1984(以下、84年法ともいう)の制定がなされています。

そして、1995年のEU指令により、英国は、1998年にデータ保護法1998(以下、98年法ともいう)を制定しました。

2 データ保護法1998の特徴

データ保護法1998は、データ保護法1984と比較した場合に、きわめて大部であり(84年法は、43条と附則4条に対して、98年法は、75条と附則16条)、また、データ保護法1998は、フレームワークにすぎずデータ保護法84よりも制定法により決定さるべきところがより多いという特徴があります。その上、データ保護法98は、手作業による記録(マニュアル・データ)にも及ぶなど、明らかにその適用範囲を広げました。そして、法案には、説明および財政的なメモが付されているのですが、それによれば、新しい体制に適合するために、その開始コストは、民間部門で8億3600万ポンド、公的部門で、1億9400万ポンドになると見積もられていました。

3 98年法の客観的状況

98年法の状況は、いわば孤立した存在であった84年法とは異なり、同一のフィールドの3部作と見られています。

他のふたつとは、人権法(Human Rights Act 1998)と英国における政府の情報自由法制の導入とです。

人権法は、ヨーロッパ議会の「人権および基本的自由条約」を国内法化しなくてはならず、また、同条約の8条1項(「すべての者は、プライベートな生活、家族の生活、家庭および通信を尊敬してもらう権利を有する」)が、個人データへのアクセスを含むと解されているのです。また、人権法と98年法とは、メディアに対する扱い(データ保護の適用除外)について議論を呼んだところでもあります。

また、情報自由法制は、政府に対する情報公開請求の80%は、個人のデータに関連する(諸外国の制度を参考)のであり、この限りで、情報自由法制が98年法を補完することになります。もっとも、請求者以外のものに関する限り、情報自由法制は、その目的と客体においてデータ保護法と衝突を起こしかねないともいわれています。

4 98年法の実装

英国は、他のEU諸国と同様に、98年の10月24日までにデータ保護指令を実装しなければならなったのですが、結局は、間に合わず、2000年3月からの施行となりました 。また、マニュアル・データ保護の局面と、現存するユーザーとの関係については経過規定が設けられています。