EUにおける著作権執行に関する議論

EUにおける著作権の保護の流れについてみていくことにしましょう。

(1)まずは、2000年代中盤までの動きについては、情報処理推進機構に対する報告である「情報セキュリティに関連するソフトウェアの取扱いに係る法律上の位置付けに関する調査」報告書で触れられています(特に報告書24頁以下)。

特に知的財産権行使指令(Directive 2004/48/EC on the enforcement of intellectual property rights) の内容及び運用は、極めて重要なものであるといえます。

著作権指令第8条(3)は、「構成国は、権利者が、著作権若しくは関連する権利を侵害するために第三者によって利用されている媒介者に対しても差止命令を申し立てる立場にあるようにしなければならない」と定めています。

また、知的財産権行使指令においては、証拠保全手続、侵害配布ネットワークや侵害品の出所に関する情報開示の定め、そのための差止命令の定め、審理後の救済手段などが論じられている。同指令11条(差止命令)は、「構成国は、知的財産権に対する侵害があるという司法的判断がなされた際において、司法権が、侵害者に対して継続的な侵害を差し止める差止命令をなすことができるようにしなければならない。(略)構成国は、権利者が、第三者によって利用されている媒介者に対しても著作権(2001/29/EC)指令第8条(3)に反しない限り、差止命令を申し立てる立場にあるようにしなければならない」としています。

ドイツのGEMA事件やイギリスの一連のNewsBin事件などは、これらの規定を前提に理解しないといけないような気がします。

(2)具体的な執行に関する論点

著作権の執行についていえば、具体的には、著作権者が、権利侵害をなしている者のIPアドレスを取得して訴訟を提起するという場合もあるし、また、インターネット媒介者に対してブロッキングを求めるという形態の訴訟を提起する場合もあります。

前者の場場合、権利者が、IPアドレスから本人を識別する個人データ(例えば、身元や住所など)を権利者に対して開示することができるのかという論点が存在する。

この点についてのEUの判決は、Case C-275/06、 Productores de Música de España (Promusicae) v Telefónica de España SAU [2008] ECR I-00271 になります。

申立人は、音楽及びオーディオ・ビジュアルの制作者・発表者からなるNPOです。ISPである相手方に対して、KaZaA を利用して違法に著作物をシェアしていたことが分かっているIPアドレスから身元・物理的住所を明らかにするように命じた事案であって、マドリッド商事裁判所は、これを認め、明らかにするように命令を出しました。これに対して、相手方が、刑事事件捜査のため、又は公共の安全・国家防衛のためでなければならないのではないかとして控訴した事件である。
本件では、著作権指令、電子通信指令、著作権執行指令などとデータ保護指令との関係が問題となったので、EU裁判所の判断が求められました。

裁判所は、
電子通信指令は、トラフィックデータに関しての秘密を確保するための義務を求めるが、それを制限することは一定の例外のもとに認められることをも規定しているとし、それが民事手続のために許容されるかが問題であるとしました。同指令15条(1)は、データ保護指令の13条(1)の規定を例外として挙げるものとしており、同条項は、権利及び自由の保護のための例外を許容するものである。したがって、民事手続のための開示の可能性を除外するものではないと判断しています(パラ53)。

(3)差止に関するリーディングケース

また、後者のインターネット媒介者に対する差止命令の問題について、参考とされるべき欧州裁判所の判決例としては、Google v LVMH事件(2010) 、L’Oreal v eBay事件(2011) 及びScarlet Extended SA v Société belge des auteurs、compositeurs et éditeurs SCRL (SABAM)事件(2011)があります。

(ア)Google v LVMH事件(2010)

Google v LVMH事件(2010)は、LVMH(ルイ・ヴィトン等の商標権者)がGoogleの検索結果に対して、スポンサードリンクで、イミテーションのルイ・ヴィトンの商品がイミテーションやコピーとの文言とともに掲示されることに対して、登録商標を侵害しているという宣言判決を求め、地裁・控訴審において、侵害が認められており、それに対して、法的な見地から控訴した事件である。ここでは、インターネット参照サービスプロバイダが宣伝をディスプレイすることは、禁止される登録商標の使用行為に該当しないという判断がなされています。

(イ)L’Oreal v eBay事件(2011)

 これは、種々の登録商標を有している申立人が、相手方(eBay)に対して、登録商標を侵害している物品の販売に対しての懸念を示す手紙を送付したが、その対応に満足せずに、共同体商標である‘Amor Amor’と英国の登録商標である‘Lancôme’を示す17商品の販売に責任があるという判断を求めた事件です。この17商品が偽造品であることは当事者間に争いはありませんでした。

この事件において英国の高等法院は、侵害は認めたものの、多くの論点が欧州裁判所の判断にかかっているとしたものである。

この事件に関しては、種々の論点が議論されているが、10番目の質問は、欧州裁判所による「著作権行使指令(2004/48)の11条は、構成国に対して、知的財産権の保有者に対して、オンラインマーケットの運営者のようなウェブサイトの運営者に対して、侵害された権利によって、運営者が、将来の侵害を防止する手段をとるように要求する差止命令を要求することができるか、もし、それであれば、その手段は何であるのか」というものです。

前者に関しては、同裁判所は、マーケットプレイスを通じてなされる侵害に対して、侵害を終了させるというもののみではなく、さらなる侵害を防止するものでなくてはならない(パラ131)と判断しています。そして、後者に関しては、効率的で、抑止的(dissuasive)でなければならないとしています(パラ136)。
具体的には、プロバイダに対してアクティブモニタリングを義務付けるものではならこと(同139)、適法な取引に対する障壁となるものではないこと(特定の商標を有する商品の販売禁止になったりしないようにすること)(同140)、権利侵害にオンラインサービスを利用したとものに対しての効果的な救済策を確かにするために、販売者を識別することを容易にすること(同142)を命じることができるとしたのです。
もっとも、その具体的な方策は、各構成国の裁判所に委ねられたのです。

(ウ)Scarlet Extended SA v Société belge des auteurs、 compositeurs et éditeurs SCRL (SABAM)事件(2011)

Scarletは、顧客にインターネットへのアクセスを提供するISPであって、ダウンローディングやファイルシェアリングなどのサービスは、提供していなません。一方、SABAM は、音楽著作物の著作者、作曲家、編集者を代表し、第三者に対する許諾をなす管理会社です。

2004年11月26日、ベルギーの審判所は、著作権の侵害があったとし、専門家に対して、実際に、SABAMの提案する技術的解決策 が、技術的に違法なファイル共有のみを遮断(filter out)するのか、ピア・ツー・ピア型の使用をモニターする他の手法があるかどうか、手法のコストはいくらかを調査させました。この調査結果によれば、完全な規則に基づいて違法な電子ファイルのシェアリングをフィルターし、ブロックすることはできないものとされました。
2007年6月29日の判決において、審判所は、Scarletに対して、利用者が、SABAMのレパートリーに属する音楽作品を含むファイル全てを受信若しくは送信することを不可能にするようにし、終了させることを命じました。
これに対して、Scarletは、①システムのフィルタリングとブロッキングの効率性と成果は、証明されておらず、実装するための設備も実際上の困難に遭遇することから、技術的差止命令に応じることは困難であること、②システムに対して、一般的な通信のモニタリングを命じることになり、2000/31指令15条を実装する2003年3月11日法11条に違反することになる、③フィルタリングシステムの実装は、EU法の個人データ保護及び通信の秘密の法に違反する(というのは、そのようなフィルタンリグは、IPアドレスの処理を行うことになり、それは、個人データであるからである)として、控訴を申し立てました。
控訴裁判所は、手続を中止し、予備的判断のために、事件をEU裁判所に回付しました。

EU裁判所は、この問題について、判決において、上記L’Oreal v eBay事件(2011)における判断に依拠し、差止命令は、ISPに対して一般的にモニタリングを義務付けるものであってはならないことを述べました(パラ38)。

そして、その観点から、ベルギーの判決は、全ての利用者に対して、著作権の侵害に対して将来においても、防止するように積極的なモニタリングを義務付けるものであって、著作権行使指令第3条に違反する。差止命令として許容しうるものとしては、①ピア・ツー・ピアに関するトラフィックのみを識別するものであること、②著作権者が侵害されたと主張するファイルを識別すること、③それらのファイルのうち、違法にシェアされたものを決定しうるもの、④違法と思慮されたファイルシェアリングをブロックすることの全ての要件を満たさなければならない。したがって、これを満たしていないベルギーの裁判所の命令は、著作権指令15条(1)に違反する。また、この判断にあたっては、他の基本権とのバランスも考慮されなくてはならないし、ISPなどの運営者の事業を営む自由とのバランスも考慮されなくてはならない。著作権指令との関係のみではなく、ISPの利用者である個人の個人データ保護、情報を受領する自由とのバランスを侵害するものであると判断したのです。

その結果、EU裁判所は、上述の差止手法を採用することは排除されるべきであるとしたのです。