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ネットワーク中立性講義 その11 競争から考える(3)

でもって、ゼロレーティングについて考えてみましょう。

そもそも、いわゆるゼロレーティンクというのは、通信に関するサービスの提供者が、消費者にたいして、特定のコンテンツやアプリケーション等の通信料を無料とするサービス(ゼロ・レーティング)を提供することをいうと定義することができるでしょう。このゼロレーティングが、ブロードバンドに関する市場との関係で、どのような影響を及ぼしうるのでしょうか。これは、そもそも、ブロードバンドに関する市場をどう考えるかということにも、関連します。

このような電気通信をめぐる市場については、総務省が、「電気通信市場検証会議」という研究会を開催しており、そこでの資料が興味深いものです。この会議は、「電気通信市場に関する動向の分析・検証を充実させ、電気通信事業者の業務の適正性等に関するモニタリング機能の強化等を図り、効率的かつ実効性の高い行政運営を確保するに当たり、客観的かつ専門的な見地から助言を得ることを目的」とするものです。

とくに、市場の分析については、この会議の「市場分析の対象について」(平成28年11月25日 総務省総合通信基盤局 電気通信事業部事業政策課)という添付資料が参考になります

総務省は、従来、「データ通信」、「音声通信」、「法人向けネットワーク」の3領域について、それぞれ、サービス市場を画定してきました。この状況をしめした図は、以下のとおりです。

それを、この添付資料においては、移動系通信について、「音声通信市場」と「データ通信市場」の区分を廃止する、という判断がなされました。その結果、以下の図のような市場画定を前提に議論することとなっています。

モバイルブロードバンド市場について検討するときに、製品市場というのは、「製品特性やその価格、使用用途によって、消費者が交換可能あるいは代替可能であるとみなす全ての製品及び/又はサービス」は、何なのか、ということを考えることになります。単なる携帯電話の数というわけではなくて、ブロードバンドで、いつでも、どこでも、接続してパケット通信をなしうるのか、という観点から、画定されるような気がします(理屈的には、顧客と競争者の視点、消費者の嗜好から、判断される-需要者の範囲の画定の問題はありますね。白石 「独占禁止法」(3版)51頁-ガラケーの台数は入るのか、とか、UQは、とかの細かい論点はありそう)。

でもって、資料にも記載されているのですが、「携帯電話・PHSサービス(1億6,143万契約〔2016年6月末。以下同じ。〕)のうち、音声・データの両通信機能を兼ね備えた音声通信・データ通信共用サー ビス(1億2,175万契約)が75%と主流を占める中、音声通信とデータ通信を切り離した「音声通信市場」と「データ通信市場」という区分は、現在普及しているサービスの実態にそぐわないものとなっていること、音声通信専用サービス(39万契約、0.2%)は、音声通信・データ通信共用サービスへの代替による減少が続き、僅少となってきていること、通信モジュール等を除く多くのデータ通信専用サービスは、音声通信・データ通信共用サービスとも需要の代替性があること、データ通信専用のサービスであるBWAサービスのほとんどがグループ内取引によりLTEサービスと併せて提供されていること」
から、「音声通信市場」と「データ通信市場」には区分せず、競争状況等の分析の段階で考慮することとする、とされています。音声通信が、風前の灯火ともいえる状態になっていることは、総務省も正面から、認識しているところです。

では、キャリア別のシェアは、というと、
(1)メイン利用者のアンケートでいうと、ドコモ、KDDI、ソフトバンク、Y!mobile、その他MVNO、持っていない、では、32.8%、29.6%、23.3%、3.4%、MVNO 7.4% 持っていない3.5%だそうです。
(2)総務省の資料だと、携帯電話等シェアという計算の仕方だと、ドコモ、KDDIグループ、ソフトバンクグクループで、それぞれ43.3%、28.9%、27.8%となるそうです。

(基本的には、移動系通信の契約数による。資料は、電気通信事業分野における市場の動向(平成28年5月))

電気通信をめぐる具体的な問題は、以下の図のような構造になる、と判断されています。

固定ブロードバンドと移動系通信市場があって、それにいろいろなアプリケーションが絡んでくるのが、競争上の問題の基本的な土俵ということにになります。

それぞれの市場において、支配的地位を有している事業者が排除的な濫用行為をなさないか、というのが、一つの問題になりますが、わが国においては、電気通信事業法によって、非対称的規制が課されているという特徴があります。そのために、諸外国での「ネットワーク中立性」の議論については、競争の維持という観点からも、一定の回答が与えられているということになるのです。

詳しくは、次回に述べることにしましょう。

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