アメリカ民事訴訟における開示の変遷

1 従前

これらの証拠開示の一般的ルールが、証拠が、デジタル形式で保存されることが一般になった時代でも適用されるかという点が問題となりました。

具体的に、デジタル証拠は、従来の証拠に比較して種々の観点から特殊性が指摘されています 。例えば、デジタル証拠は、おうおうにして証拠としての量が膨大なものになりがちであり、また、調査のために費用かきわめて高額な費用がかかるとか、また、情報自体、変動しやすい(dynamic)ということがいえ、コンピュータの電源のオン・オフによって変更がなされてしまい、また、上書きという形で、従来の書類については簡単に消去がなされることなども特徴としてあげられています。その上、電子的に記録されたデータは、システムによらなければ、理解できないということもいえます。
これらの観点を重視する立場から、従来は、コンピュータ証拠については、過度に広範で、負担となり、高価なものであるという理由で、企業は、コンピュータ証拠の開示手続きを避けることができるとされたこともありました。

2 90年代の発展

しかしながら、電子ドキュメントを特別視する考え方は、一般的な支持を得られず、従来のディスカバリの考え方が、電子ドキュメントに対しても同様に適用されるという考え方が、一般的に支持されるようになりました。

これらのルールの発展の経緯を1990年代から歴史的に見ていくと以下のようなことがいえます。
1995年のチバガイギー事件においては、イントラネット内の電子メールデータがディスカバリーの対象となることについては、争いは、ありませんでしたが、連邦民事訴訟規則26条(b)(2)の規定を適用して、コストの一部を原告に転嫁することを命じました。

1997年のSatatr対 Motorola事件においては、原告が被告に対して電子メールの証拠の提出を求めたのに対して、被告が電子メールを4インチテープに書き出してファイルとして記録した場合に読み出すことができなかったという事案で、裁判所が、被告に対して読み出すことができる手段を提供するか、ハードコピーの提出に要する費用を折半するか、いずれかを行うように命じました。

1999年のPlayboy Enterprise事件においては、原告の被告に対するデータの開示要求において、原告が被告のハードディスクにアクセスしてミラーイメージを作成し、そのデータの管理を被告側弁護士にゆだねる形でディスカバリーがおこなわれるという形がおこなわれました。

 

3 2000年代

 

その後、 2002年前後においては、eディスカバリーをめぐる、いろいろな裁判所で決定がでるようになっていきました。

Metropolitan Opera Association v. Local 100, Hotel And Restaurant Employees Int’l Union( 212 F.R.D. 178 (S.D.N.Y. 2003)) 事件においては、裁判所は、悪意によってコンピュータ証拠を不適切に損壊した場合において、どの程度によると訴訟を終了させるにいたるかということを明らかにしています。
Residential Funding Corp. vs. DeGeorge Financial(306 F.3d 99 (2nd Cir 2002))事件においては、Residential Fundingは、電子メールやコンピューター書類を提出するようにと要求されたのに対して、技術的困難さがあるとして避けようとしました。しかしながら、裁判所は、そのような行為は、「意図的な怠慢(“purposeful sluggishness”)」であるとして、結局、相手方であるDeGeorge Financialの専門家が、Residential Fundingのデスクトップやネットワークにアクセスしうるものとした上に、金銭負担および証拠上の制裁を課しました。

同様の決定としてSee, Antioch Co. vs. Scrapbook Borders, Inc.(210 F.R.D. 645 (D Minn 2002)、 Tulip Computers International vs. Dell Computer(2002 WL 818061 (D DE 2002))があります。
これらのようなeディスカバリ対応をなさなかった場合の対応について定める以外にも、ディスカバリーのプランについての決定がいくつかでています。

具体的には
(1)Simon Property Group v. mySimon, Inc.(supra, 194 F.R.D. 639)においては、中立のフレンジック専門家を裁判所のオフィサーとして、命じ、被告に関連するコンピューターを特定させ、検査、異議、情報移転について、会議を開くようにさせました。そして、具体的に、専門家が、検査をすることができるように命じ、その専門家に対して、ファイルの保全・回復と提出をなすことなどを命じました。

(2)Trigon Insurance Company vs. United States(204 F.R.D. 277 (E.D.Va. 2001))は、保険会社が、政府に対して7年間にわたる所得税の還付をもとめたものです。 政府は、分析途上において、アナリストにドラフトを含んだ数通の電子メールを送付したが、その後、それらのメールについては、通常のリテンションボリシーにもとづいて消去したと主張しました。しかしながら、裁判所は、政府の見解をみとめませんでした。専門家の分析によって政府が大量のデータを消去していたのが明らかになったので、証言や専門家の信用性についての、不利益な説示をなしました。この事件は、フォレンジックの専門家の果たすべき役割の重要性を示すものと評価されています。

(3)Rowe Entertainment v. The William Morris Agency( 2002 WL 63190 (S.D.N.Y.))は、秘匿特権を扱うのに際して、技術的な問題が提起されたときの扱いについての一つのモデルを与えています。原告が専門家を指名し、被告は、それに対して異議を述べる機会があたえられます。原告は、被告の技術者の助力をえてミラーイメージを取得して、検索手順をさだめ、それを被告に通知します。被告の代理人は、検索語を含めて、その手順に対して異議を述べることができます。そして、適切な検索手順が確立されたら、原告の専門家によって実行されます。

 

また、一連のZublake判決なども出されて、eディスカバリーの手順が次第に明らかになってきたということがいえるでしょう。そして、そのような判決例などをもとに、連邦民事訴訟規則が定められて、eディスカバリーの実務が、発展・定着していくということができるでしょう