米国民事訴訟におけるコスト負担

eディスカバリーの問題に関して、コストの負担の問題がでてきます。米国においては、開示にかかわる種々のコストは、その提出する当事者が負担するのが一般的なルールになります。これに対して、英国では、敗訴当事者が勝訴当事者の訴訟費用(ここでは、弁護士費用を含む)を負担すべきとなります(現実には、タキシングという計算手続があります)。

ただし、電子的文書については、すでに消去され、格納されてしまったデータについては、すでにその当事者が「保有(possession)」するものではないとして、その回復のための費用は、請求当事者が負担すべきではないかという説もありましたが、裁判所は、この議論を認めるものではありませんでした。というのは、この場合に、コストの移転を認めてしまうと、重要なデータをそのようなデータ格納スキームのもとで、格納してしまうのを奨励することになりかねないということがあったからです。

もっとも、改正前の連邦民訴規則26条の規定も比例ルールを定めており、これが、eディスカバリーに対応して「不適切な負担もしくは費用」を回避するために利用されており、かかる比例ルールが電子的開示の際のコスト負担についても適用されることを言明する判決もでてきていました。

種々の議論がなされましたが、現在は、Two-Tierアプローチという考え方が一般的になっています。そして、この考え方をもとに連邦民事訴訟規則も構築されています。連邦民事訴訟規則26条(b)2(B)によると、

(B) 電子的に保存された情報についての特別の制限(Specific Limitations on Electronically Stored Information) 

不合理な負担もしくはコストにより合理的にアクセスしえないと当事者が、特定した保存もとに電子的に保存された情報を開示する必要はない。開示強制もしくは、保護命令の申立において、開示を求められた当事者は、情報が、不合理な負担もしくはコストにより合理的にアクセスし得ないことをしめさなければならない。その点が示された場合、裁判所は、それにもかかわらず、規則26(b)(2)(C).示す限界を考慮し、そのような保存元からの開示を命じることができる。裁判所は、開示についての条件を特定することができる。

 と定められています。これは、実際的には、ESIは、二つのグループに分けられており、それによって、ルールが異なることを示しています。

具体的には、データがどのようなところに、どのように保存されているかということを考えてみましょう。実際には、(1)アクティブ・オンライン データ、(2)ニア ライン データ、(3)オフライン保存・アーカイブ、(4)バックアップテープ、(5)消去・断片化・破損データにわけて考察することができます。

(1)アクティブ・オンライン データ

アクティブな段階というのは、ESIが作成され、受領され、処理されている段階で、ハードディスクなどに記録されているデータを指し示します。

(2)ニア-ライン データ

ニア-ライン データというのは、自動的に記録されるシステムのデータを含むものです。具体的には、光学ディスク、リムーバブルディスクなどをいいます。

(3)オフライン保存・アーカイブ

電磁的記録やアーカイブであっても、災害復旧用、もしくは、記録の保存用の記録をいいます。一般的には、検索しうるメディアではありません。

(4)バック・アップテープ

ここで、バックアップテープというのは、順次(シークエンシャルに)アクセスされるメディアをいいます。実際には、圧縮されて記録されることも多いといえます。これらの保存データは、テープすべてを復元しないともとのデータを回復できないことになります。

(5)消去・断片化・破損データ

消去されたファイルであっても、新しいファイルによって上書きされないかぎり、消去されないし、また、断片化されたファイルというのは、内容が分断され、連続した空間に存在しないものです。また、破損ファイルというのは、ハードウエアやソフトウエアの誤動作等によって、完全な形ではないファイルをいいます。このような場合には、特別の処理によってアクセスしうるようになります。

このうち、(1)ないし(3)について(第1群)と、(4)および(5)について(第2群)の分類は、開示の対象になるかという点とコスト負担の点で、取り扱いが異なるものとされています。

第1群は、関連性があり、秘匿特権が関係ない場合には、開示の対象になるものと考えられます。開示を命じる命令が必要なわけではありません。

一方、第2群は、保存元を特定するのみでたり、その場合には、相手方(開示要求者)がアクセスするとした場合にのみ開示が可能になります。開示要求者は、相当な理由(訴訟にとって必要な理由)を明らかにして裁判所の命令を得ることになります。第1群の場合には、ESIのタイプやカテゴリーを特定しないといけないのです。

第1群は、「合理的にアクセスしうるもの」とされて、当然に、データを保存している当事者自身のコスト負担で、開示されるべきものと考えられています。

一方、第2群は、両当事者によって分担されるべきものと考えられています。もし、裁判所が、この第2群のESIについて開示を命じたのであれば、弁護士は、相手方当事者にコストを分担するつもりがあるかを問うことになります。

上記以外の法的な点についての問題としては、データのサンプリングに対する考慮、秘匿特権の放棄などの問題も考える必要があります。

実際的な問題を深く理解するのには、、e-ディスカバリーについての標準的なモデルの詳細、セドナ会議によるガイドライン群などを検討する必要があると思われます。これらについては、eディスカバリーの実際という項目で深く検討する必要があります。